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広島高等裁判所 昭和28年(ネ)47号 判決

控訴人 原告 有限会社白石灰場

訴訟代理人 弘中武一 三浦強一

被控訴人 被告 兼安武一

訴訟代理人 西原要人

主文

原判決を取消す。

控訴人が、山口県熊毛郡勝間村大字呼坂字岩尾第六百九十二番地山林及び同大字字足谷第二千三十七番畑所在の被控訴人所有の石灰製造用窯三個並びに右地上及び同大字字北ケ迫第千九百九十一番地の二畑所在の被控訴人所有の附属建物につき賃貸人を被控訴人賃借人を控訴人期限を昭和三十六年十月末日までとする賃借権を有することを確認する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張は、控訴代理人において、「訴外勝間村は昭和十八年三月三十一日控訴人を本件物件の賃借人に指定し、控訴人においてこれを受諾したので、本件物件につき控訴人と被控訴人との間に賃貸借契約が成立した。また、勝間村が昭和十六年十一月三十日被控訴人との間に第三者のためにする契約をなしたとき、すでに双方の間においてその第三者とは控訴人であることが特定せられていたものである。」と述べ、被控訴代理人において、「控訴人の右主張事実を否認する。」と述べた外、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

証拠として、

控訴代理人は甲第一号証を提出し、原審証人後藤柳助、兼安麟太郎、当審証人河内和民、神代寿作の各証言、原審及び当審における控訴会社代表者兼安公郎本人訊問の結果を援用し、乙各号証の成立を認め乙第二号証を利益に援用した。

被控訴代理人は、乙第一、第二、第三号証、第四号証の一から五まで、第五、第六、第七号証を提出し、原審証人大中庄次、兼安篤夫、当審証人林泰、熊野精太郎、河井正渡、片山梅吉の各証言、原審及び当審における被控訴人本人訊問の結果を援用し、甲第一号証の成立を認めた。

理由

主文第二項記載の本件物件が被控訴人の所有に属することは当事者間に争がない。

控訴人は先ず、被控訴人は昭和十六年十一月三十日訴外勝間村に対し本件物件を期限昭和三十六年十月末日まで、賃料年四百五十五円の約で同村又は同村の指定する者に賃貸することを約し、同村は右約定に基き昭和十八年三月三十一日控訴人を本件物件の賃借人に指定し、控訴人においてこれを承諾したので、本件物件につき直接控訴人と被控訴人との間に賃貸借契約が成立した旨主張し、成立に争のない乙第二号証によれば、昭和十六年十一月三十日勝間村と被控訴人との間に右の如き約定の成立したことを認め得るけれども、右約定に基き同村が控訴人を本件物件の賃借人に指定し直接控訴人と被控訴人との間に賃貸借の成立したことについては、原審証人兼安鱗太郎、後藤柳助、当審証人神代寿作の各証言並びに原審及び当審における控訴会社代表者本人訊問の結果中控訴人の右主張事実に符合する部分は成立に争のない乙第五号証当審証人河内和民、熊野精太郎、林泰の証言に照し、容易に信用し難く、他にこれを認めるに足る証拠は存在しない。

控訴人は次に、勝間村は昭和十六年十一月三十日被控訴人との間に本件物件につき第三者のためにする賃貸借契約をなし、控訴人はその第三者として昭和十八年三月三十一日頃被控訴人に対し受益の意思表示をしたから控訴人被控訴人間に賃貸借が成立した旨主張するけれども、右主張事実を認めるに足る何等の証拠も存在しない。

成立に争のない乙第二、第五号証、原審証人大中庄次、兼安篤夫、当審証人河井正渡、熊野精太郎の各証言並びに原審及び当審における被控訴人本人訊問の結果を綜合すれば、被控訴人は昭和十六年十一月三十日勝間村に対し本件物件及びその敷地たる被控訴人所有の山口県熊毛郡勝間村大字呼坂字岩尾第六百九十二番地山林及び同大字字足谷第二千三十七番畑のうち同村所有地よりの石灰石の採掘、搬出並びに石灰製造に必要な部分の土地を期限昭和三十六年十月末日、賃料は本件物件につき一ケ年金三百五円、右土地につき一ケ年金百五十円合計金四百五十五円、毎年七月末日支払の約で賃貸し、同村は被控訴人の承諾の下に昭和十八年三月三十一日控訴人に対し本件物件及び右土地を前同一条件で転貸したことを認めることができる。

ところで、控訴人は被控訴人が昭和二十三年二月五日控訴人に対し直接本件物件を賃貸するに至つた旨主張するので、この点について判断する。

成立に争のない甲第一号証、乙第四号証の一から五まで、乙第七号証、原審証人後藤柳助、兼安麟太郎、大中庄次、当審証人神代寿作の各証言、原審及び当審における控訴会社代表者本人訊問の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すれば、控訴人は本件物件所在地附近にある勝間村所有地に存在する石灰石を同村より買受け、これを採取し、或は石灰を製造するために、同村が被控訴人より賃借していた本件物件及び前記土地を前示認定の通り昭和十八年三月三十一日転借し同村に対し一ケ年金四百五十五円宛の転借料を支払い、同村はこれを賃料として被控訴人に対し支払つて来たこと、被控訴人はかつて控訴会社の社員でその取締役をしていた者であるが、終戦後物価が著しく騰貴し本件物件及び前記土地に対する一ケ年合計金四百五十五円の賃料が甚だしく低廉に失するようになつたので、昭和二十三年二月五日頃直接控訴会社の当時の代表取締役兼安公郎に対し賃料の値上げを請求し、同人もその値上げに同意し、交渉の末昭和二十二年度分より暫定的に賃料を十倍とすることに合意が成立し、一ケ年金四千五百五十円の割合による賃料を控訴人より直接被控訴人に対し支払うことになり、ここに控訴人と被控訴人との間に本件物件及び右土地につき賃料を当分の間一ケ年金四千五百五十円とする外その他の条件は前同様の賃貸借が成立するに至つたこと、その際右兼安公郎及び被控訴人は、右賃料につき地代家賃統制令の適用の有無が判明せず、右賃料の値上げが統制令違反となることをおそれる一方、また右賃料の値上げが勝間村の知るところとなれば、同村より控訴人に対し前示石灰石の代金の値上げを要求せられるおそれもあつたので、右賃料値上げ及び新賃貸借の事実を勝間村に対して内密とし、右金四千五百五十円の賃料は双方合意の上賃料補助金名義を以て支払うことと定めたこと、そこで控訴人は被控訴人に対し本件物件及び土地に対する賃料として補助金名義を以て昭和二十二年度分より昭和二十六年度分まで一ケ年金四千五百五十円の割合の金員を支払うと共に、勝間村に対しては一ケ年金四百五十五円の割合の前示転借料を引き続き支払い、勝間村は右金四百五十五円を被控訴人に対し本件物件及び土地に対する賃料として支払つて来た事実を認めることができ、原審証人兼安篤夫の証言並びに原審及び当審における被控訴人本人訊問の結果中、右認定に反する部分は信用できない。そして賃借権は債権であるから、右のように控訴人がすでに転借権を有する本件物件及び土地につき新たに賃借権を取得することは法律上も素より可能なことである。

成立に争のない乙第一、第六号証、当審証人河井正渡の証言によれば、昭和二十六年一月三十一日新鉱業法が施行せられ、石灰石は同法にいわゆる鉱物とされ国有となつたので、被控訴人は前示被控訴人と勝間村との間の本件物件及び土地の賃貸借は、同村所有の石灰石を売却しその財源を助ける目的を契約の要素とし且つその有効要件としていたのであるから、新鉱業法の施行により同村が石灰石を売却できなくなつた以上右賃貸借は当然消滅したものとなし、勝間村を被告として前示賃貸借終了確認の訴を徳山簡易裁判所に提起したところ、同村において被控訴人の右主張を認めたので、昭和二十七年五月十四日被控訴人勝訴の判決の言渡があり、右判決は同年六月二十一日確定したことを認めることができる。従つて、被控訴人と勝間村との間の前示賃貸借が終了した結果、勝間村と控訴人との間の前示転貸借も消滅に帰したことは明らかである。しかしながら、前記認定の通り、控訴人は右転貸借とは別に昭和二十三年二月五日頃被控訴人より直接本件物件及び土地を賃借したのであるから、前者の転貸借の消滅により、後者の賃貸借契約が当然消滅すべきいわれはない。

また、当審における証人神代寿作の証言及び控訴会社代表者本人訊問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、控訴人は勝間村所有地より石灰石を採掘し石灰を製造する目的で被控訴人より本件物件及び土地を前記のように直接賃借したものであるが、新鉱業法施行後も引続き右土地より石灰石を採掘し、現在は右土地の鉱区に石灰石の採掘権を取得して石灰石の採掘及び石灰の製造に従事していること並びに控訴人は本件訴訟の繋属後新たに石灰製造用竈を建造し、昭和二十九年以降は本件物件中石灰製造用竈三個を使用していないけれども、その他の本件物件は引続き前記目的のために使用していることを認め得るから、控訴人と被控訴人との間の前記賃貸借契約が目的の消滅により終了したものといえないことは明らかである。しからば、控訴人が被控訴人所有の本件物件につき昭和三十六年十月末日を期限とする賃借権を有することは明白であり、被控訴人においてその存在を争う以上、右賃借権の確認を求める控訴人の本訴請求は正当として認容すべきものである。右と異り控訴人の請求を棄却した原判決は失当であるから、民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 植山日二 裁判官 佐伯欽治 裁判官 松本冬樹)

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